リプレイスメンツ [amazon] US US

『Sorry Ma, Forgot To Take Out The Trash / The Replacements』(写真上)
『All Shook Down / The Replacements』(写真下)
80年代のアメリカン・インディーシーンで強烈な個性を放ちながらも、(R.E.M.やソウル・アサイラムなどの活躍を横目に…)ついぞ成功を収めることなく消滅してしまったリプレイスメンツ。そのデビュー作(81年)と最後のアルバム(90年)です。ミネソタ州ミネアポリスという地方都市から生まれたバンドの最初の作品は、自由奔放で剥き出しの感情をハードコア/パンク・サウンドで叩きつけるように表現。全18曲で37分弱という収録時間からもその勢いがわかるはず。お世辞にも上手いとは言えないカクカクッとしたどこかぎこちない演奏も、むしろプラスに変えてしまうぐらいの痛快さ。荒削りだけど魅力的なメロディ、キレの良いギターリフ等、メロコアの原形とも言える彼らが築き上げたスタイルは、後のシーンの形成に大きな影響を及ぼした。間違いなく、この時代のロックシーンに楔を打ち込んだアルバムのひとつでしょう。


一方、最終作となった『All Shook Down』のほうはセピア色に染まった雨の道路に二匹の犬が佇むというジャケットからして雰囲気が全然違うし、名前をを伏せて聴いたら同じバンドのアルバムとはとても思えない内容。もちろん、この10年間でバンドも成長し、フォークやブルースなどのルーツミュージックの要素なども取り入れて変化もしてきたのだが、その舵取りをしたのはバンドの中心的存在であったPaul Westerbergの突出した才能とカリスマ性でした。この時期にはすでに彼のワンマン・バンドであったし、最後のアルバムも事実上Paulのソロとして知られている。独特のしわがれた味のある声と、素朴でありながらセンチメンタルで緩急のあるアメリカンロックとの組み合わせは、その後のソロ活動のプロトタイプ的な作品とも言えるんじゃないでしょうか。


この対照的なふたつのアルバムを並べて聴こうということには、最初から無理があるのはわかっていたが、それでも敢えて強引な言い方をしてしまうと、この2枚は始まりと終わり(あるいは新たな始まり)、コインの表と裏のようにも思えてきます。もちろん、それはPaulを中心にした話だけど。デビュー当時の初期衝動をそのまま吐き出したような作品や活動がなければ、今の穏やかで感情豊かな彼の歌もどこか違ったものになっていたかもしれないし、そういったPaulの眠っていた才能が、初期のリプレイスメンツのハードコア/パンクを他とは違うものへと押し上げたのではとも思えるんですが。