まずは冒頭に行われた10分間の依田氏の意見陳述部分


「ただいまご紹介いただきました日本レコード協会会長の依田でございます。本日は私どもの意見や要望を申し述べる機会を作っていただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼申し上げます。10分間という短い時間でございますので、日本レコード協会の概要につきましては、お手許の配布資料に譲ることといたしまして、早速音楽レコードの還流防止措置の導入を要望する理由からご説明申し上げたいと思います。


まず、この音楽レコードの還流防止措置はレコード製作者だけでなく、作詞家、作曲家などの著作権者、歌手、演奏家などの実演家、さらにはレコード販売店など音楽関係者の総意として導入を要望しているのであります。
近年、中国、韓国、台湾、香港などの東アジアの国々で日本語の歌が広く受け入れられるようになってまいりました。アジア諸国に日本の音楽を普及させるため、平成5年に日本レコード協会を始め、音楽関係団体が中心になりまして、財団法人音楽産業文化振興財団、略称PROMICを設立いたしまして、日本音楽情報センターを北京、ソウル、上海、済州島に設立いたしまして、現地の人々が気軽に日本の音楽を視聴できる環境を提供してまいりました。またこれらの国々では、今なお海賊盤が多く流通しておりますので、著作権セミナーや、啓発コンサートなど、種々開催してまいっております。10年経った今日、このような活動が日本の音楽の人気となって実を結ぼうとしているわけでございます。さて、このようなアジア諸国の日本音楽に対する需要に応えるためには、現地のレコード会社に対して積極的なライセンスを行うことが必要ではありますが、還流防止措置がないままライセンスいたしますと、日本より大幅に安い価格のレコードが日本に還流し、国内で流通しているレコードの販売と競合することになります。そのようなことになれば、レコード製作者にとってレコード製作への投資を回収することが出来なくなるばかりでなく、日本のレコード価格を基準に収入を得ている日本の作詞家、作曲家などの著作権や、歌手、演奏家などの実演家などはきわめて少ない収入しか得ることしか出来なくなりますので、活動の基盤が脅かされ、新たな音楽作品を創り出すうえで大きな打撃となります。その結果は日本の音楽文化の衰退に繋がるとこになるわけでございます。還流防止措置が導入された場合には、日本の音楽文化の海外への普及が促進され、音楽を通してアジア諸国の日本及び日本国民に対する理解が深まるものと考えております。また音楽産業の活性化により、その効果は関連産業にも波及し、日本経済全体に好影響をもたらすものであります。そして、権利者に適正な利益が確保されることによって、音楽創造サイクルが円滑に循環し、日本国民に幅広いジャンルの多様な価格の音楽作品を提供し続けていくことが出来るわけでございます。このように、音楽レコードの還流防止措置は、著作権者、実演者、及びレコード製作者の適正な利益を確保し、日本の音楽文化の海外普及を促進するために必要不可欠な制度であります。


次に音楽レコードの還流防止措置の導入に関する消費者の方々からの懸念や意見に対し、日本レコード協会長としてお答えしたいと思います。まず一番目でございますが、欧米からの輸入盤が止められるのではないかとの懸念に対してでございますが、この法律が出来ても欧米からの輸入盤が止められることはございません。その理由は欧米で圧倒的なシェアを持つソニー、ワーナー、ユニバーサル、BMG、EMIといういわゆるファイブメジャーの日本法人が、一番目といたしまして、欧米諸国で製造販売されたいわゆる洋楽レコードの直輸入を禁止するよう、ライセンサーに対し働きかけを行う考えがないこと。二番目、ライセンサーであるファイブメジャー各社にも洋楽レコードの日本への直輸入を禁止する考えがことがないことを確認しております。三番目に、したがいまして、ファイブメジャー各社が欧米諸国で発売するレコードに『日本販売禁止』の表示をして権利行使する考えのないことを確認していること。以上の三点を明確に表明していることをお伝えしたいと思います。また日本レコード協会からの照会に対し、アメリカレコード協会RIAAも、RIAA会員であるファイブメジャーに日本への輸入を禁止する考えがないことを書面で回答をしております。したがいまして、アメリカ、イギリス等の欧米で販売されているレコードの日本への輸入が禁止されることはございません。


二番目のポイントといたしまして、日本のレコードの価格は高すぎるのではないか、というご指摘でございますが、まずわたくしは日本のレコードの価格は欧米先進国と比較して決して高くないと考えております。日本のレコードは価格の多様化、低価格化が進んでおりまして、昨年1月から11月までに日本レコード協会会員レコード会社が発売した邦楽アルバム4445タイトルの価格を分析いたしますと、2500円未満の価格のものが41,5%と最も多く、平均価格も2315円であります。確かに欧米先進国の中でアメリカは日本より2割から3割程度安いと認識しておりますが、世界の62億人のマーケットを対象とするアメリカと、1億3千万人をマーケットとする日本との市場環境の差ですね、あるいは欧米に較べて豪華な仕様を好む日本の国民性などを考えますと単純に比較することは出来ないと思われます。もちろん、よりよい音楽をより安く提供することがレコード会社の責務でもありますので、今後も不断に経営努力を続けてまいりたいと考えておりますが、具体的には価格の多様化や低価格化、収録曲数の増加、CDとDVDの複合商品の販売など消費者ニーズに応じた作品を提供してまいりたいと思います。


三番目でございますが、レコードの再販制度は廃止すべきとの声に対しまして、このように考えております。再販制度は日本の音楽文化を維持するためにきわめて重要な制度であると考えております。日本では全国津々浦々、どこでも同じ価格でレコードを購入することができ、また売れ筋商品に、えーっと……集中することなく邦楽のJポップ、純邦楽、童謡から、洋楽のポピュラー、ジャズ、クラシックまで、世界有数の幅広いジャンルとカタログが販売されております。また制度の運用については2001年3月の再販存置の結論以降も消費者利益の確保のために、弾力運用を積極的に進めております。例えば、再販期間は2年から1年へ。さらには6カ月へと、短縮に向ける取り組みが進んでおります。さらに価格の多様化、低価格化が進んでいることは先ほど述べた通りでございます。再販制度については公正取引委員会において、著作物再販協議会など消費者の代表も入った検討の場が設置されております。そのような場で、わたくしどもからも運用状況を充分にご説明し、ご理解を得たいと思っております。


最後に音楽レコードの還流防止措置の導入にあたり、わたくしの決意を申し上げて現陳述を終わらせていただきたいと存じます。
一番目、還流防止が導入された際には、アジア諸国からの日本音楽に対する需要の拡大に備え、積極的に海外進出を計り、日本の音楽文化の海外普及の促進に努めます。二番目、日本の音楽のアジア諸国へのマーケット拡大によって得られた利益は、権利者だけではなく消費者にも多様なかたちで還元していきます。何卒、音楽レコードの還流防止措置の導入についてご理解をいただけますよう、宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました」